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47エッセイコラム

春夏秋冬「ゆる伊豆」だより  小林ノリコ

第12回 松崎町の桜葉は日本食文化の写し鏡

上新粉やもち粉を使った桜餅が多い。道明寺粉の桜餅は1軒のみ扱っている
上新粉やもち粉を使った桜餅が多い。道明寺粉の桜餅は1軒のみ扱っている

西伊豆地区にある賀茂郡松崎町は、和菓子などに使われる「桜葉」の一大産地。日本国内で生産される桜葉の約7割が松崎町産である。この地で栽培されている桜葉は、オオシマザクラという品種。桜葉の香りの元となる「クマリン」という成分の含有量が、他の品種と比べてとても多いという。葉の産毛も少なくて柔らかく、桜葉の塩漬けに最適な品種なのだ。

松崎町にある2本の川「那賀川」と「岩科川」の流域にある桜葉畑では、5月に入ると桜葉の摘み取りが始まり、収穫は夏の終わりごろまで続く。なかでも「5月ッ葉(パ)」と呼ばれる葉は最も香りと食感が良く、なかでも「4〜5年ものの5月ッ葉」は最上級とされている。 収穫と同時期から、その日のうちに摘み取られた桜葉の塩漬け作業が始まる。現在、松崎町内に現存する塩漬けの「漬け元」は2社。葉のサイズを揃え、50枚をひと束に“まるけ(束ね)”る。桜葉の束を樽に同心円状に並べ、そこへ塩をまく作業を繰り返す。そうして樽がいっぱいになったら、重石をのせて6ヵ月ほど塩漬けにする。現在でも昔ながらの製法で、鮮度を大切に毎日塩漬け作業が行われている。

出来上がった桜葉は、艶やかなべっこう色。ほんわりと漂う特有の香りは、優雅な気分にさせてくれる。

近年では、ブラジルやイタリア、フランス、アメリカへの輸出も行っていて、海外ではその香りの良さからハーブの一種として注目を集めているという。ハーブティーのほか、チーズや生ハムといっしょに食べたり、スイーツはもちろん肉や魚、野菜料理などにも使われているのだそう。

松崎町には桜葉を使った銘菓がいっぱい。和菓子はもちろん洋菓子にも合う
松崎町には桜葉を使った銘菓がいっぱい。和菓子はもちろん洋菓子にも合う

地元・松崎町内の商店でも、工夫を凝らして様々な商品を産み出している。なかでも桜餅は、菓子店ごとに個性があり、各店の商品にそれぞれファンがついている。よく、桜餅の桜葉を食べる派・食べない派で論議を呼ぶことがあるが、松崎町の桜葉を使った桜餅は、ぜひ丸ごと食べて欲しい。餅の甘さと桜葉のやさしい塩気と芳香の絶妙なハーモニー……食べないなんて、本当にもったいない!
ほかにも、最中や羊羹などの和菓子、クッキー、パイ、マドレーヌなどの洋菓子。それから桜葉を練り込んだ香り高い蕎麦や、桜おこわ用のもち米、豚肉の桜葉漬けなども売り出されている。この町の商店はとてもアイディアが豊富だ。

町の特産品を作ることも大切だが、現在最も懸念されているのは、桜葉を育てる農家の減少。漬け元のほか農家も後継者不足で、桜葉畑の耕作放棄地が増えている。桜葉畑なくして桜葉の塩漬けもなし。松崎町の名所でもある「石部の棚田」の保存と同様、特産物や観光などすべてと連動している桜葉畑を守っていくことが急務だ。

「和食」が「ユネスコ無形文化遺産」に登録されて早や5年。登録の理由は「和食」という料理そのものへの評価ではなく、四季や自然と調和した日本ならではの伝統的な食文化への評価だった。松崎町における桜葉の栽培・加工の歴史は、自然との調和の歴史だ。炭焼きが盛んだった松崎町で、自生する桜の木(炭の原料となる)から若葉を集めたところから始まった。やがてエネルギー革命で炭の需要がなくなり、桜葉を取るために遊休農地で桜の木の栽培を開始。町の美しい景観と、日本の伝統和菓子・桜餅の歴史をつないでいる。この土地の人々は自然と調和し、長い時を経て、その恩恵を受け取ってきた。

自然や景観を守ることは日本の食文化を守ること。松崎町は、そんな日本の食文化の写し鏡のような町なのである。





【小林ノリコ プロフィール】
伊豆在住フリーランス・ライター/伊豆グルメ研究家。東京の編集プロダクション勤務を経て、2005年から地元伊豆でフリーランス・ライターとしてのキャリアをスタート。2014年より静岡県熱海市を拠点に移して活動中です。47エッセイでは、四季折々の伊豆(たまに箱根)の風景や食を中心に、あまり観光ガイドに載らないようなテーマを、ゆる〜くご紹介していきます。


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